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2015.7.11-12
第2回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム
http://kuip.hq.kyoto-u.ac.jp/ja/archives/2015/about/
[エレクトロニクス分野]
ルール バーツ(ベルギー ゲント大学 教授 / Interuniversity Microelectronics Centre)
講演テーマ「フォトニック集積回路-インターネットとライフサイエンスの飛躍的発展に向けて-」
フォトニック集積回路(PIC)は過去15年の間に著しく重要性を増し、今や施設での研究から製造工場へとその場を移している。従来、PICは、ガラスなどの多様な素材やリン化インジウムのようなIII-V族半導体を含め、あらゆる材料で製造されてきたが、過去15年の間に光ICのための「新しい」材料システムが出現した。それが、電子ICに使用されている主力材料のシリコンである。これまで、シリコンはフォトニクス材料としてはあまり関心を持たれてこなかった。ところが、状況は劇的に変化しており、今日、シリコンベースのPICは、多様なアプリケーションに対する最も汎用性の高い技術プラットフォームとして急激に成長しつつある。
物理的な観点から言えば、シリコンフォトニクスの大きな強みは、屈折率差の大きい(シリカの1.45に対して、シリコンでは3.5)光導波路素子を使用しているという点にある。この屈折率差の高さが、光の一つの(シリコン)波長への閉じ込めのほか、超小型素子(ベンド、フィルタ、スプリッタ、偏光コンバータ)や過去に例のないQ/Vを持つ微小共振器の作製、著しいパーセル増強効果の活用、フォトニック結晶構造や低速波構造の実装、ナノメートルレベルへの形状調整による導波管の分散特性の作出、波長以下の構造をベースとするメタマテリアルの創造、周波数コム発生などへのシリコンの強力なカー効果の活用を実現してきたのである。このため、研究領域ではかなり「豊富」な研究業績が蓄積されており、シリコンの光学チップを用いて多様な物理的現象が実証されている。この中には、他の技術では不可能な方法で実証されているケースもある。
これらはいずれも、成熟したCMOSファブの技術的環境がなければ生まれなかった成果である。200mmあるいは300mmウェハ上での193mm深紫外線リソグラフィに依拠するこれらのファブのパターン形成能力があってこそ、100nmをはるかに下回る最小加工寸法、100nmレベルの周期構造での最小ピッチ、数nmレベルの形状精度を持つ構造の作製が実現する。これこそまさに、質と再現性に優れ、シリコンが透明になる「通信波長帯」(1.3μmおよび1.55μm)で動作する高屈折率差のナノフォトニクス素子の実装には欠かせないものなのである。
しかしながら、シリコンフォトニクスを主に牽引してきたのは、アプリケーションサイドのニーズである。インターネットの急激な成長は、データの密集する基盤上での短距離相互接続に使用できる、低コストかつ低専有面積の広帯域光送受信器への大きなニーズを生み出した。25Gb/s、場合によっては40Gb/sのデータレートに対応する光変調器や検出器を実装でき、しかも先進CMOSファブの持つ標準的な工程ツールを用いて実装が可能なシリコンフォトニクスにとって、これこそまさに他に秀でることのできる領域である。確かに、現時点では、ウェハスケールの製造工程による送受信器用PICへのレーザーの集積は実現していない。しかしながら、様々な複合技術が存在するほか、部分的にではあるが、III-V族半導体ベースのレーザーダイオードをシリコンPICに集積できるウェハスケールのアプローチも開発されている。さらに、これらの集積を実現する真にモノリシックなアプローチにも、今後に有望な科学的進展が確認されているのである。
システムを構成しているのはフォトニックチップだけではない。チップは他の機能、特に電子機能とパッケージングし、集積しなければならない。また、シリコンフォトニックICが一層複雑化していることから、階層設計ツールに対するニーズも高まっている。過去数年の間に、これらの「補助的な」手法のための一連の機能やツールが業界を大きく勢いづかせてきた。成熟するにつれ、シリコンフォトニクスを、単にデータコムやテレコムにとどまらず、センサやバイオセンサ、生体医療機器などを含めた多様な市場に役立つ汎用技術として捉える傾向が出現し始めている。駆動要因になっているのは常に同じ。大きくてかさばる、しかも高コストの実装と同等の機能性や性能を備えた、コンパクトで低コストの集積回路を創造することである。このような傾向の例として挙げられるのが、タンパク質やDNAのような生体粒子感知用のPIC、多様な低分子(グルコース、アンモニア、食品腐敗マーカーなど)の分光光度検出用PIC、光干渉断層やレーザードップラー振動測定用PIC、ファイバ・ブラッグ・グレーティングの読み出し用PICなどである。
アプリケーションという観点から考えた場合、これら新規のアプリケーションでは、シリコンフォトニクスの「従来の」波長(1.3μmおよび1.55μm)が必ずしも最適だとは限らない。このことから、最近、CMOSファブでチップを製造できるという重要な利点からできるだけ逸れることなく、シリコンフォトニクスを他の波長領域に「移し替えよう」という傾向が生まれている。多くのグループが、より長い波長(中赤外域)に向かってシリコンフォトニクスの新たな境地を開拓しており、その大きな動機づけとなっているのが振動分光技術の活用が持つ将来性である。これと並行して、生体媒質や蛍光マーカー、ラマン分光法との両立性を高めることを目的に、より短い波長を指向しているグループもある。このケースでは、シリコン核を可視光領域で透明な材料に置き換えなければならない。その優れた候補になっているのが窒化ケイ素なのである。
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