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第3回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム
http://kuip.hq.kyoto-u.ac.jp/
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/opencourse/158
2016年7月9日

[バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー分野]
本庶 佑 (Tasuku Honjo)
京都大学 客員教授

講演テーマ
「PD-1抗体によるがん治療」

PD-1は1992年石田らが胸腺における細胞死の際に誘導されるcDNAをサブトラクションハイブリダイゼーション法で単離したときに偶然発見された細胞膜受容体分子である。その後、西村らのPD-1遺伝子ノックアウトマウスの解析からPD-1が免疫反応の抑制分子であることを明らかにした。2002年岩井らはPD-1シグナルを阻害するモノクローナル抗体によって、免疫系が賦活化され、ウイルス感染症やがんの治療に効果があることを発見した。さらに我々は京都大学産婦人科学教室との共同研究で卵巣がんの予後とがんにおけるPD-1リガンドの発現との間に見事な相関関係があることが明らかとなった。すなわち、PD-1リガンドを発現しているがん腫は予後が悪く、キラーT細胞からの攻撃を避ける能力があるのではないかと想定された。これらの知見をもとに私はヒト型モノクローナル抗体を用いたがん治療法の開発を発案し、製薬企業を説得した。

こうして、2006年ヒト型抗体作製技術を利用したヒト型抗PD-1モノクローナル抗体の作製が行なわれた。この抗体を用いた治験(第一相)が、米国、日本で行なわれ、その結果、多くのがん腫症例において忍容性及び有効性が認められた。この知見に基づき、京都大学探索医療センターにおいて卵巣がんに特化した第ニ相治験が2011年冬から開始された。その後治験が進みPD-1抗体はメラノーマの治療薬として2014年6月にPMDAによって承認された。現在、世界中では200件近くのPD-1抗体による各種がん腫治療への治験が進行中であり、有効性が確認されつつある。今後は日本の企業が次のアカデミア由来のシーズ誕生にどのように貢献するか注目される。

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