
第3回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム
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2016年7月10日
[数理科学分野]
砂田 利一 (Toshikazu Sunada)
明治大学総合数理学部 学部長
講演テーマ
「数学の創造:数論から幾何学へ」
多角形の立体類似が多面体であり、正三角形と正方形の立体類似がそれぞれ正四面体と立方体であることは誰もが認めるだろう。このような、「次元」を変えた場合に図形の類似を考えることは、古代ギリシャに遡り、また他の文脈でも行われている。例えば、蜂の巣格子の立体類似はダイヤモンド格子であり、正三角格子の立体類似は、面心立方格子に付随するネットワークであるが、何故類似なのかを説明するには、被覆グラフの理論が必要になる。
実は、対称性の観点からは、蜂の巣格子の立体類似はもう1つある。蜂の巣格子とダイヤ格子は、特別な対称性(強等方性)を有しており、これを同じ対称性を持つものは「ダイヤモンドの双子」とよばれる仮想的結晶構造である。1923 年にドイツの結晶学者F. Laves が発見したこの構造が、蜂の巣の立体類似であり、ダイヤモンド格子以外にはこれしかないことが2006 年に講演者により明らかにされた。
歴史を振り返れば、ヒルベルト・高木の類体論は、リーマン面の被覆理論と体の拡大理論の間の類似から生まれた。数体の拡大理論とリーマン多様体の被覆理論の類似から、講演者により等スペクトル多様体の一般的構成法が発見され、「太鼓の形は聞き分けられるか?」というM. Kacの問題への反例作りに貢献した(C. Gordon, D. Webb, and S. Wolpert)。リーマン・ゼータ関数の幾何学的類似はセルバーグ・ゼータであり、そのグラフ理論的類似が伊原ゼータである。セルバーグ・ゼータに対するリーマン予想の類似は、リーマン面上の固有値の性質と関係があり、伊原ゼータがリーマン予想の類似を満たすグラフは、経済的かつ効率的ネットワークのモデルとなっている。素数分布に関連する素数定理とディリクレの算術級数定理は、アノソフ力学系の周期軌道の漸近挙動に類似を持つ。
さらに、数論における「クロネッカーの青春の夢」はグラフ理論的類似を有する。この「夢」は、解の公式を持つ代数方程式に関するアーベルの研究を嚆矢とし、体のアーベル拡大の具体的構成問題に関連する。その類似は、結晶構造の標準的デザインに応用され、さらに代数曲線に付随するアーベル・ヤコビ写像の離散類似に関連しているのである。従って、元来のクロネッカーの夢は完全には解決されていないのだが、その幾何学的類似は解決されたことになる。
本講演では、数論と幾何学の類似追及が契機となった講演者自身の研究を振り返りながら、数学がどのようにして創られるのかについて解説する。
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