Original (English):https://youtu.be/dxYrft2zubc

第3回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム
http://kuip.hq.kyoto-u.ac.jp/
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/opencourse/158
2016年7月9日

[バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー分野]
エマニュエル シャルパンティエ (Emmanuelle Charpentier)
マックス・プランク感染生物学研究所 所長
ウメオ大学スウェーデン分子感染医学研究所 教授

講演テーマ
「遺伝子改変を容易にしたゲノム工学技術CRISPR-Cas9:細菌から学んだ教訓」

RNAによってプログラム可能なCRISPR-Cas9システムは、生命科学の分野に近年登場した遺伝子改変技術であり、これにより標的ゲノムの編集、染色体の標識、遺伝子の調節をより迅速かつ効率的に行うことが可能となった。このシステムでは、エンドヌクレアーゼであるCas9もしくは触媒活性をもたない変異型Cas9をsingle guide RNA(sgRNA)を用いてプログラムすることにより、sgRNAと標的DNAが相補的に結合する領域の近傍に特定の短い塩基配列(Protospacer Adjacent Motif, PAM)があるという条件下であれば、いかなるDNA配列も部位特異的に標的とすることが可能である。このシステムは効率的で汎用性が高い上、容易にプログラムできる。

CRISPR-Casは本来、細菌や古細菌に備わったRNAで媒介される適応免疫のシステムであり、菌が移動性の遺伝物質(ファージやプラスミド)による侵入から自己を防御するために利用されている。一般的には、特定のゲノムを標的とする固有のスペーサーを含んだ短いcrRNA(CRISPR RNA)分子が存在し、その認識部位を有する核酸分子が侵入してくると、CRISPR RNAがガイドとなってCas蛋白が核酸分子に作用し、その維持を困難にする。CRISPR-Casは主に3つの型と、さらに複数の亜型に分類されている。CRISPR-Cas9はII型CRISPR-Casシステムに由来するが、このシステムはcrRNAを成熟させ、侵入DNAを標的とするためにユニークな分子機構を発達させている。私たちの研究チームは、ヒトの病原体である化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)でこのシステムを同定した。crRNAが生合成される段階では、ユニークなCRISPR関連RNAであるtracrRNAが、crRNA前駆体のリピート配列と塩基対を形成してanti-repeat-repeat dual-RNA となり、これがCas9(以前はCsn1と呼ばれていた)の存在下でRNase IIIによって切断される結果、成熟tracrRNAと中間型crRNAが生成される。第2の成熟過程を経て成熟dual-tracrRNA-crRNA が形成されると、これがガイドとなって認識部位を含む標的DNAにエンドヌクレアーゼCas9が導かれることにより、標的DNAが切断されて、外来ゲノムは維持が困難となる。私たちは、生物由来のdual-tracrRNA-crRNAを模倣するsgRNAを使用することで、エンドヌクレアーゼCas9をいかなるDNA配列も部位特異的に標的とするようにプログラム可能であることを明らかにした。そしてこの支配原理に基づき、RNAによりプログラム可能なCas9は、バイオテクノロジー、生物医学および遺伝子治療の領域において生物の三界すべての細胞を編集する上で、汎用性の高い価値あるシステムとなりうると提唱した。ここ2年間で発表された多数の研究によって実証されたように、CRISPR-Cas9によるDNA標的化という手法は迅速かつ幅広く科学界に採り入れられ、ヒト、植物、マウスを含む様々な細胞および組織におけるゲノムの編集やサイレンシングに利用されている。講演では、 CRISPR-Cas9の役割、関与する機序、細菌におけるII型CRISPR-Casの構成要素の進化過程、新しいゲノム工学技術としてのCRISPR-Cas9の応用について考察してゆく。

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