第5回 京都大学 − 稲盛財団合同京都賞シンポジウム「生命の神秘とバランス」
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/course/361/

「小胞体ストレス応答:タンパク質の品質を管理する細胞応答」
森 和俊(理学研究科 教授)
2018年7月22日

生き物の基本単位は細胞です。私達人間は60兆個もの細胞でできています。細胞の中はどうなっているでしょうか。私達の体の中には、いろんな臓器が入っていて、肺が呼吸をし、心臓が血液を循環させています。同じように、細胞の中にも小さな臓器がたくさん入っていて、それぞれが役割分担しています。私が研究している小胞体は、細胞の中に存在する小さな臓器(細胞内小器官)の一つで、タンパク質の製造工場という役割を果たしています。

タンパク質とは何でしょう。一般には、炭水化物、脂肪と合わせて3大栄養素の一つですが、細胞の中では水の次に多量に存在する重要物質です。タンパク質が働いているから我々は生きているといっても過言ではありません。

糖尿病を例に解説しましょう。尿中の糖濃度が高いことが原因で病気になるのではなく、血液中の糖濃度(血糖値)が高い状態が続くと、糖が尿に漏れだすと同時に血管にダメージを与えて、いろいろな症状が出ます。

しかし、食事後には誰でも血糖値があがります。でもしばらくすると血糖値が低くなるのは、膵臓が作っているインスリンというタンパク質が血液中に放出されるからです。このインスリン(鍵)が肝臓や筋肉の細胞に存在するインスリン受容体(鍵穴)に入って鍵穴を回すと、車のエンジンがかかったように、肝臓や筋肉の細胞が血液中から糖を取り込むために、血糖値が下がるのです。

鍵と鍵穴は1対1で対応するように形が決まっています。タンパク質が働く時にはその形が重要なのです。タンパク質の原料はアミノ酸が数珠つながりで並んだ紐(ひも)です。ですから、この紐を針金細工で、鍵の形に作り上げているのです。この針金細工を細胞内でしているのが、小胞体という言わば工場です。この工場はかなり優秀で、よく働くのですが、それでも時にうまく機能しなくなり、不良品がいつも以上にできてしまうことがあります。この状態を小胞体ストレスと呼んでいますが、このとき、この悪くなった状況を元に戻そうとする復元力が細胞に備わっていることを私の米国テキサス大学でのボス2人が発見しました。私は彼らの指導の下、29年前からこの復元力(小胞体ストレス応答)の仕組み解明に取り組み、小胞体の中の状況が悪化していることを感知するセンサー分子を世界で初めて発見しました。帰国後もこの驚異の復元力が働く仕組みを解明してきました。その成果と意義をやさしく解説します。

2018年7月22日
有楽町朝日ホール(東京都千代田区)

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